受託開発業界におけるM&Aの最新動向やメリット、成功のための具体的ポイントを徹底解説。直近の事例をもとに、失敗しないM&A戦略の立て方を紹介します。

受託開発業界のM&Aとは?概要と背景

受託開発業界とは

受託開発業界とは、企業や組織からの依頼に基づき、ソフトウェアやシステムなどの開発を行う事業を指します。顧客のニーズを理解し、要件定義から設計、開発、テスト、運用保守まで、一連の工程を請け負うことが特徴です。近年では、デジタル化の進展に伴い、様々な業種においてシステム開発の需要が高まっていることから、受託開発業界は成長を続けています。

市場規模とトレンド

受託開発市場は、近年拡大を続けており、IDCジャパン(東京・千代田)によると、2023年の国内ITサービス市場は、前年比6.0%増の6兆4,608億円。
特に、近年注目されているのは、以下のようなトレンドです。
・クラウドコンピューティングの普及: クラウドサービスの利用拡大に伴い、クラウド対応のシステム開発需要が高まっています。
・AIやIoT技術の活用:AIやIoT技術を活用したシステム開発の需要が拡大しています。
・DX推進:企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に伴い、業務効率化や顧客体験向上のためのシステム開発需要が高まっています。
・リモートワークの増加:リモートワークの増加に伴い、オンラインでの開発体制やコミュニケーションツールの活用が重要になっています。
これらのトレンドを受け、2023年~2028年の年間平均成長率は4.8%で、2028年には8兆1495億円予測されています。
また、受託開発会社は、顧客のニーズに対応するため、技術革新や事業モデルの進化を迫られています

業界の課題と解決策

受託開発業界は、成長を続ける一方で、いくつかの課題を抱えています。
・人材不足: 高度な技術力を持つ開発者の不足が深刻化しています。
・競争の激化: 受託開発会社間の競争が激化しており、価格競争や納期短縮による収益悪化が懸念されています。
・顧客ニーズの多様化:顧客のニーズは多様化しており、それに対応するための開発体制の構築が求められています。
・技術革新への対応:新技術の出現や進化に迅速に対応していくことが重要です。
これらの課題を解決するために、受託開発会社は、以下のような取り組みを進めています。
・人材育成: 新規採用や育成プログラムを通じて、人材の確保と育成に取り組んでいます。
・技術革新:最新技術の導入や研究開発を進め、競争力を強化しています。
・顧客との連携強化:顧客とのコミュニケーションを強化し、ニーズを的確に把握することで、顧客満足度向上を目指しています。
・事業モデルの進化:クラウドサービスやアジャイル開発など、新たな事業モデルを導入することで、顧客ニーズに対応しています。

受託開発業界のM&Aの背景

受託開発業界は、上述のとおり、クライアント企業のニーズに応じてシステムやアプリケーションを一から設計・構築するビジネスモデルを特徴としています。国内ではDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の加速や、リモートワーク普及に伴うシステム需要の増大が続いており、その結果、技術力や顧客基盤を持つ中堅・中小企業への投資・買収が活発化しています。この背景には、内製化への過度なリスク回避や、短期間でのノウハウ獲得を狙う大手SIerのM&A戦略が大きな役割を果たしています。

受託開発企業をM&Aするメリット

売却側のメリット

受託開発会社を売却する側には、以下のようなメリットがあります。
・事業承継の円滑化:後継者不足や経営者の高齢化などの問題を抱えている場合、M&Aを通じて事業承継をスムーズに行うことができます。
経営資源の有効活用:売却によって得られた資金を、新たな事業投資や従業員の福利厚生などに活用することができます。
・従業員の雇用安定:買収企業が従業員の雇用を引き継ぐことで、従業員の雇用安定を図ることができます。
・事業の安定化:買収企業の経営基盤やノウハウを活用することで、事業の安定化を図ることができます。

後継者不足の解消

受託開発会社は、技術力や顧客との信頼関係を築き上げるまでに長い年月を要するため、後継者不足は深刻な問題です。M&Aを通じて事業を譲渡することで、後継者不足を解消し、事業の継続性を確保することができます。また、買収企業が経営ノウハウや人材を注入することで、事業の活性化を図ることも可能です。

買収側のメリット

受託開発会社を買収する側には、以下のようなメリットがあります。
・事業拡大: 新規市場への参入や既存事業の拡大を図ることができます。
・顧客基盤の獲得: 買収した企業の顧客基盤を獲得することで、売上拡大を図ることができます。
・技術力・ノウハウの獲得:買収した企業の技術力やノウハウを獲得することで、競争力を強化することができます。
・人材の獲得:優秀な開発者やエンジニアを獲得することで、人材不足解消に貢献することができます。
・シナジー効果と事業拡大のスピードアップ
もう一つの大きなメリットは「垂直統合によるシナジー効果」です。例えば、要件定義に強みを持つ企業がUI/UX設計に強い企業と統合することで、提案から開発、運用まで一貫したサービス提供が可能になります。また、業務プロセスの標準化や自動化ツールを内製化できることで、開発スピードが向上し、コスト削減にもつながります。
M&Aによって、買収企業と被買収企業の強みを組み合わせることで、シナジー効果を生み出すことができます。例えば、買収企業の営業力と被買収企業の技術力を融合することで、新たな顧客獲得や開発効率の向上を実現できます。また、M&Aを通じて事業を統合することで、事業拡大を迅速に進めることができます。

受託開発企業のM&Aの成功事例

①同業種によるM&A:クレスコによる日本ソフトウェアデザインを子会社化

クレスコは2023年2月1日付で、日本ソフトウェアデザインを子会社化しました。 クレスコグループは、1988年の創業以来、「最高の技術と品質を発揮するIT企業」として、ソフトウェアの開発を主力とした独立系システムインテグレーター(SIer)です。株式会社クレスコを親会社として、子会社11社、持ち分適用会社2社を持つ総合IT企業であり、主に、コンサルティングおよびソリューションサービス業務、設計、開発業務、運用管理、保守業務、調査、分析、評価および技術支援業務を行っております。 一方の、日本ソフトウェアデザインは1983年設立。大阪、東京、名古屋の大都市に拠点があり、大阪・東京においては主に銀行・保険・流通・物流分野など幅広い領域の業務システム開発及びシステム運用管理、名古屋では自動車メーカー向けの組込みソフトウェア開発を行っています。 今回の株式取得で、クレスコの幅広い業務アプリケーション分野における提携に加え、大阪事業所および大阪に本社を置く子会社「株式会社メクゼス」との関西でのビジネス協業、組込みビジネスを手掛ける名古屋事業所との協業関係が見込まれます。

参考:日本ソフトウェアデザイン株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

②異業種によるM&A:ウエルシアによるエクスチェンジの子会社化

受託開発会社のM&Aは、異業種間においても盛んに行われています。 ウエルシアは、言わずとしれたドラッグストア業界の大手企業です。同業他社の買収だけでなく、異業種のM&Aに関しても積極的です。 エクスチェンジは、2003 年の設立以来、情報システムの設計・開発・運用、ソフトウェアの受託開発等を主力事業として展開しています。特に Web 系のサーバーシステムやアプリケーションの開発を強みとしており、企画から設計・開発・運用まで一連の工程を対応できる事業基盤・ノウハウを持っています。 ウエルシアは、2024年1月にエクスチェンジ社のM&Aを発表。今回のM&Aにより、今まで外部企業に委託していたIT関連業務の一部内製化を進め、グループにおける IT インフラやアプリケーションなどの情報システムの整備を進めるとともに、DX を推進する IT の企画・開発・運用体制の構築を加速する予定です。

参考:株式会社エクスチェンジの株式取得(完全子会社化)についてのお知らせ

③AI関連の受託開発企業のM&A:データ・アプリケーションが生成AI活用システム受託開発のWEELを子会社化

昨今、AI関連企業のM&Aが活発に行われており、受託開発企業の買収ニーズも高まりを見せております。 データ・アプリケーション は企業内外のデータ連携に関するソフトウェア開発・販売およびコンサルティングを行う企業です。 2024年7月に、生成 AI を活用したシステム受託開発及びコンサルティング、および AI メディア運営などを行っている WEEL を子会社化しました。 今回のM&Aにより、AI技術を活用したデータ連携ビジネスの拡大、AI の社内利用による業務効率の向上、AI エンジニアの採用・協働による優秀な人材の獲得と人材育成の強化等のシナジーを見込んでいます。

参考:株式会社データ・アプリケーション、株式会社 WEEL の完全子会社化完了 ~生成 AI を実装し、データ連携ビジネスをさらに加速~

M&Aを成功させるためのポイント

適切な相手の選定

M&Aを成功させるためには、適切な相手を選定することが重要です。企業規模や事業内容、経営理念、文化などが合致している企業を選ぶ必要があります。また、買収後のシナジー効果が期待できる企業を選ぶことも重要です。

情報セキュリティの確認

受託開発会社は、顧客の機密情報を取り扱うため、情報セキュリティ対策が非常に重要です。M&Aを行う際には、買収対象企業の情報セキュリティ対策が適切に行われているかを確認する必要があります。情報セキュリティ対策が不十分な企業を買収した場合、顧客からの信頼を失う可能性があります。ITデューデリジェンスとは?そのプロセス、チェックポイントについて解説!」の記事も参考にしてください。

PMIの策定

統合作業では、買収先と買収元のプロセスやツールを早期に統一する “ワン・プラットフォーム化” が鍵を握ります。具体的には、開発管理ツール(JIRA/Redmine など)の設定や権限体系を買収先に合わせてカスタマイズし、全社共通のガバナンスを早期に確立しましょう。また、定期的なクロスファンクション・ワークショップを通じて、両社文化の「価値観すり合わせ」を実施することが、長期的なシナジー創出に有効です。

キーマンへの対応

M&A後の最大リスクは「キーパーソンの流出」です。受託開発企業では、特定のエンジニアやプロジェクトマネージャーが顧客との信頼関係を築いているケースが多く、買収後に退職されると売上・品質が大きく毀損します。そのため、インセンティブ制度の維持や、退職防止条項(ロックアップ状況)を契約に盛り込むことが欠かせません。

専門家の活用

M&Aは複雑な取引であり、専門知識や経験が必要です。弁護士、会計士、税理士などの専門家を積極的に活用することで、M&Aを円滑に進めることができます。専門家のアドバイスを受けることで、リスクを最小限に抑え、成功確率を高めることができます。

受託開発業界のM&Aのまとめ

M&A市場の今後の予測

受託開発業界のM&A市場は、今後も成長を続けると予想されます。デジタル化の進展に伴い、システム開発の需要はますます高まっており、受託開発会社は、事業拡大や競争力強化のためにM&Aを積極的に活用していくと考えられます。
特に、AIやIoT技術、クラウドコンピューティングなどの最新技術を活用した受託開発会社は、高い成長が見込まれ、M&Aの対象として注目される可能性があります。

M&A成功の秘訣まとめ

受託開発会社の様々なM&A事例から、以下のような成功の秘訣が挙げられます。
・シナジー効果を生み出す:買収企業と被買収企業の強みを組み合わせることで、シナジー効果を生み出すことが重要です。
・顧客基盤の獲得:買収した企業の顧客基盤を獲得することで、売上拡大を図ることができます。
・技術力・ノウハウの獲得:買収した企業の技術力やノウハウを獲得することで、競争力を強化することができます。
・人材の確保:優秀な開発者やエンジニアを獲得することで、人材不足解消に貢献することができます。

M&Aを検討する際の注意点

受託開発会社のM&Aを検討する際には、以下の点に注意する必要があります。
・企業文化の適合性:買収企業と被買収企業の企業文化が合致しているかを確認する必要があります。企業文化が異なる場合、統合後に摩擦が生じる可能性があります。
・従業員のモチベーション:買収によって従業員のモチベーションが低下しないよう、適切な対応が必要です。従業員の不安を解消し、モチベーションを維持することが重要です。
・リスク管理:M&Aには様々なリスクが伴います。リスクを事前に把握し、適切な対策を講じる必要があります。
長期的な視点:M&Aは短期的な利益追求ではなく、長期的な視点で検討する必要があります。買収後の事業統合やシナジー効果を最大限に引き出すための計画を立てることが重要です。
受託開発会社のM&Aは、事業拡大や競争力強化のための有効な手段となりえます。しかし、M&Aには様々なリスクが伴うため、慎重な検討が必要です。適切な相手を選定し、専門家のアドバイスを受けながら、リスクを最小限に抑え、成功確率を高めることが重要です。

執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ 片岡翔 東京大学卒業後、楽天グループ株式会社に入社し、中小小売企業へのコンサルティングや新規決済サービスの立ち上げに従事。楽天銀行株式会社に転籍後、数多くの大型ストラクチャードファイナンス案件のアレンジ、法人融資、事業提携等を推進。その後、IT系ベンチャー企業にて、法人向けサービスの責任者として事業再構築やビルメンテナンス企業の支援。 保有資格:証券アナリスト協会 認定アナリスト 一般社団法人金融財政事情研究会認定 M&Aシニアエキスパート
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