「廃業をするか?M&Aにより第三者による事業承継を行うか?」か、後継者不在のオーナー様が、経営を引退する際に悩むことだと思います。適切な意思決定をするために、各選択肢のメリット・デメリットを比較し、最適な意思決定が出来るよう解説をいたします。

目次

廃業とM&Aの基本概念

ビジネスの終了や転換を検討する際に、「廃業」と「M&A(合併・買収)」という二つの選択肢があります。これらの選択肢は企業経営に大きな影響を及ぼすため、それぞれの概念や手続きを理解することが重要です。

廃業とは?

廃業とは、企業が事業を完全に停止し、業務を終了することを指します。倒産とは異なり、法的整理を伴わず自主的に事業を停止・解散すること。個人事業なら廃業届、会社なら株主総会→解散登記→清算結了の流れとなります。主な理由としては後継者不足、経営不振、資金不足、ビジネスモデルの失敗などがあります。廃業手続きには、資産の売却、負債の清算などが含まれ、結果的に企業は完全に消滅します。

株式会社帝国データバンクによると2023年の企業の休廃業・解散は5万9105件と前年比10%増となっています。その中でも、「黒字」休廃業の割合は51.9% 休廃業企業の経営者年齢、平均70.9歳とのことです。

出典 株式会社帝国データバンク:「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)

M&A(合併・買収)とは?

M&A(Merger and Acquisition)は、企業が他の企業と合併したり、買収したりする手法です。M&Aの目的は、市場シェアの拡大、経営資源の統合、技術やノウハウの取得などです。M&Aは、企業の存続や成長のために、経営体制を変更する手段です。 レコフデータの調査によると、2024年の日本企業のM&A件数は3457件と19.4%増加しています。

出典 レコフデータ「2024年1-9月期のM&A件数、19.4%増の3457件。金額も34.3%増

また、M&Aについての概要は、以下の記事で解説しています。

「M&Aとは? 初心者向けにわかりやすく解説 定義・歴史・成功事例・手続き等」

それぞれの目的と基本的な流れ

廃業は事業を終了させる方法である一方、M&Aは企業の存続や成長を図る手段です。具体的な手続きとしては、廃業の場合、資産の売却、負債の整理、M&Aの場合、企業価値評価、M&Aの相手企業の捜索、交渉、契約締結などです。それぞれの選択肢には、目的に応じた異なる手順と流れがあります。  

廃業のメリットとデメリット

廃業のメリット

廃業にはいくつかのメリットがあります。まず、事業の負担から解放されることで、経営者は新たな挑戦に集中できるようになります。また、事業を完全に終了することで、事業に関わる負債やリスクからも解放されます。さらに、廃業は手続きは比較的シンプルであり、計画的に実施すれば比較的スムーズに行える場合があります。

廃業のデメリット

一方、廃業にはデメリットも存在します。まず、従業員の解雇や取引先への対応などの対応が必要になります。例えば、廃業に伴い、従業員は職を失うことになります。また、資産の売却や負債の清算には時間とコストがかかる場合があり、予想以上の損失や労力が発生する可能性もあります。
 

M&Aのメリットとデメリット

M&Aのメリット

M&Aには多くのメリットがあります。例えば、垂直統合といわれる、自社のサプライチェーンの異なる工程を担う企業を統合する場面では、原材料の供給から製品の販売までの一貫した態勢を構築し、効率性やコスト削減を図ることができます。また、水平統合といわれる、同じ工程を担う業界内外の企業を統合することで、市場シェアの拡大や事業の多角化によって競争力の強化を図ることができます。これにより、規模の経済を享受し、競争優位性を確立することができます。

M&Aのデメリット

一方で、M&Aにはデメリットも存在します。まず、M&Aプロセスには時間とコストがかかり、失敗するリスクもあります。統合後の文化やシステムの違いによる摩擦が生じることも多く、期待したシナジー効果が得られない可能性もあります。また、M&Aによる負債の増加や経営リスクの増大も考慮する必要があります。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、リスクを事前にしっかりと把握する必要があります。

ケーススタディ:M&Aの成功と失敗の例

<成功例> ECサイト「楽天市場」や旅行サイト「楽天トラベル」などを展開する楽天グループは、2005年に、現在の楽天カードの前身となる国内信販会社を買収しました。楽天市場や楽天トラベルの決済手段として、同社のクレジットカードを積極的に推進したことや、プロ野球球団を活用した知名度向上等により、会員数を増加させ、日本でNo1のクレジットカード会社にまで成長しました。クレジットカードビジネスが楽天グループの運営するビジネスとシナジー効果が高く、成功例の一つです。 <失敗例> 収益が減少していた日本郵政グループが、2015年に豪物流のトール社を約6,200億円で買収するという超大型M&Aが行われました。郵政グループは同じく民営化したドイツポストが国際宅配会社の米DHLを買収し、成長していた例を参考にしていました。しかし、杜撰なデューデリジェンス(資産評価算定)や投資計画が原因となり、結果的に約4,003億円の減損損失の計上を迫られる大失敗に終わりました。この例からも、M&Aの成功には綿密な計画と実行が必要であることがわかります。  

廃業とM&Aの比較

コストとリスクの比較

廃業とM&Aでは、それぞれ異なるコストとリスクが存在します。廃業の場合、資産の売却や負債の清算にかかるコストが発生し、社会的責任も伴います。一方、M&Aでは、交渉(手数料)や統合プロセスにコストがかかり、失敗するリスクも含まれます。これらのコストとリスクを比較し、どちらが自社にとって最適かを慎重に評価することが重要になります。

経営資源の最適化

廃業では、企業の経営資源を清算し、完全に終了しますが、M&Aでは既存の資産を統合し、新たな価値を創出することができます。M&Aを選択することで、経営資源を最大限に活用し、より大きな成長を実現する可能性があります。

企業のブランドと市場価値への影響

廃業は企業のブランドや市場価値を完全に失う結果となりますが、M&Aではブランドや市場価値を維持しつつ、さらに拡大するチャンスがあります。M&Aを通じて市場シェアを拡大し、企業の価値を高めることができるため、長期的な視点での判断が求められることになります。  

廃業とM&Aの選択基準

どちらを選ぶべきか?判断ポイント

廃業とM&Aの選択には、企業の状況や市場環境を総合的に考慮する必要があります。判断ポイントとしては、企業の財務状況、将来の成長性、事業の戦略的価値、そして社会的な責任などが挙げられます。こうしたポイントに関して、専門家のアドバイスを受けながら最適な選択肢を見極めることが重要です。

事業の状態や市場環境の考慮

企業の事業状態や市場環境も選択の重要な要素です。事業が経営不振に陥っている場合、廃業が現実的な選択肢となることがあります。一方、市場に成長の余地がある場合や、競争力のある資源を持っている場合には、M&Aによる成長戦略が有効になることもあります。

専門家のアドバイスと準備

廃業やM&Aの選択には、専門家のアドバイスが不可欠です。M&Aの専門家と相談しながら、選択肢を検討し、必要な準備を進めることが成功への鍵となります。慎重な計画と戦略的なアプローチが、最良の結果をもたらします。 以下は、廃業かM&Aかの判断を行うためのフレームワークの例です。こちらも参考にしながら、自社をの事業を分析し検討することがお勧めです。
項目 廃業が適するケース M&Aが適するケース
1. 業績トレンド 赤字が常態化 安定黒字または成長余地
2. 有形資産 ごく少額 不動産・設備がある
3. 無形資産 取引先集中・ブランド希薄 固有技術・顧客基盤
4. 従業員数 0〜数名 10名以上・技能人材
5. 経営者の希望 速やかにリタイア 売却後も一定期間関与
6. 債務状況 過大債務がない 債務健全またはリファイナンス可
7. 市場環境 成長停滞 ニッチトップ・DX需要
 

まとめ

本記事では、廃業とM&A(合併・買収)の2つの企業の経営の転換点となる選択肢について解説し、企業の経営者として企業の方向性を決定する際の判断ポイントについて挙げさせていただきました。 それぞれの選択肢には、異なるメリットとデメリットが存在します。廃業は、事業を完全に終了させる手段であり、資産売却や負債清算を伴います。経営者にとってのメリットは、事業に関わる負債やリスクから解放されますが、社会的責任や損失のリスクも伴います。M&Aは、企業の成長や市場拡大を目指す手段であり、経営資源の統合や技術の取得が可能ですが、プロセスには時間とコストがかかり、統合後のリスクもあります。 そのため、コストやリスクの比較、経営資源の最適化、企業のブランド価値など、さまざまな要素を慎重に評価することが必要です。また、企業の状態や市場環境、専門家のアドバイスを考慮しながら、最適な選択肢を見極めることが成功への鍵となります。ビジネスの未来を決定する重要な選択肢として、廃業とM&Aの特徴を理解し、適切な判断を行うことが企業の方針を決める経営者にとって非常に重要です。  
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏  株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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