事業承継とは、会社の経営を後継者へと引き継ぐことを意味します。経営者の高齢化に伴いその必要性は年々高まっております。企業のオーナー様が事業承継する際には、主に①親族内承継②従業員承継③M&A④廃業という4つの選択肢がありますが、どの選択肢が最適な方法かを検討するために、それぞれの選択肢の概要とメリット・デメリットについて解説します。

目次

事業承継とは?

事業承継とは、前述の通り、会社の経営を現在の経営者から別の後継者へと引き継ぐことをいいます。似たような言葉に事業継承がありますが、以下のような違いがあります。

「承継」…地位・事業・精神などを引き継ぐこと。

「継承」…身分・権利・義務・財産などを引き継ぐこと。

つまり、事業承継は、会社の経営権だけでなく、経営者の想いや理念、文化なども引き継ぐことを指します。例えば、中小企業の従業員は、経営者の人柄や長年の信頼があって、高いモチベーションで継続的に勤務しているケースが多いでしょう。中小企業の経営において、経営者の存在はとても大きいと言えるため、後継者選びが重要となります。 2020年3月31日に中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~」によると、日本全体において、令和7年(2025年)までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人、うち約半数の約127万人が後継者未定と推計されています。
引用:中小企業庁(2020年3月31日)「中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~」
また、2024年版『中小企業白書』によると、経営者年齢が70歳以上の企業が過去最高を更新した一方で、2023年時点の後継者不在率は54.5%に達しています。つまり日本の中小企業の約2社に1社が事業承継の具体策を持たないまま時間だけが経過している状況です。早期準備の重要性は年々高まっています。
引用:「 2024年版 中小企業白書 第6節事業承継」
つまり、数多くの中小企業が、後継者不在を理由に廃業せざるを得ない状況が想定されています。このまま、事業承継問題が解決されない場合、廃業による雇用喪失、連鎖倒産、生産力の低下等を招き、日本経済全体にとって大きなマイナスとなります。  

事業承継をする後継者の存在について

事業承継の方法を考える際に、まずは、自身にすでに後継者候補となるような人が存在するか確認しましょう。 後継者候補となるような人が、ご子息等の親族の場合は「親族内承継」、現在経営されている企業の番頭さん等、会社を任せられる従業員がいる場合は「従業員承継」が選択肢となります。 一方、後継者候補となるような方が見つからない、もしくは、後継者候補の方が、後継者となる意思がなかった場合は、「M&A」による第三者承継や「廃業」が選択肢となります。  

事業承継の選択肢① 親族内承継について

親族内承継とは

親族内承継は、オーナー様が保有する株式を、相続手続きにより、ご子息等の親族に承継する方法です。後継者候補となる方は、入社後すぐに経営ポジションに就く場合もあれば、事業承継のタイミングよりも早い段階で当該企業に入社し、営業や製造、管理部門等の様々な部署での現場経験を積んだ後、経営ポジションに昇格し、株式を承継するケースもあります。

親族内承継のメリット

まず、創業家としての地位を継続することが出来ます。承継後のオーナー様は創業者の親族であることから、創業者としての経営理念や哲学、会社の方向性が引き継がれやすく、従業員の会社への求心力を維持したまま事業承継を成功させる可能性が高いです。もちろん、退任後も会長や顧問として、引き続き企業に関与し、承継後のオーナー様、経営陣、従業員のフォローを行うことも出来ます。 このように企業の体制が大きく変わらないことから、従業員の雇用の維持や取引先との関係の継続が可能です。

親族内承継のデメリット

第1に、今後、会社の会社の運命が、承継後のオーナー・経営者の経営能力に左右されることが挙げられます。必要な経営能力が備わってないまま、親族内事業承継を推し進めることは、今まで大切に育ててきた会社の業績を悪化させる要因となります。 その他に、当該株式を相続財産として特定の後継者に引き継ぐため、相続人全員が納得感のある相続が出来ていない場合、トラブルの可能性もあります。また、現在のオーナー様が、会社の借入金に対し、経営者保証をしている場合、当該保証を承継後のオーナーに引き継ぐ必要もあります。

参考記事事業承継税制とは? 制度の内容やポイントをわかりやすく解説!

 

事業承継の選択肢② 従業員承継について

従業員承継とは

従業員承継とは、現在経営されている企業の中で、後継者として相応しい従業員に株式を譲渡し、オーナー・経営者のポジションを引き継ぐ方法です。当該従業員は、社長と二人三脚で会社の苦楽をともにしたメンバーや番頭さんと呼ばれるような方々等です。

従業員承継のメリット

会社のことをよく知っており、社内外の信頼が厚い従業員に承継できれば、引継ぎ後に経営方針が大きく変わる可能性も少ないでしょう。そのため、現在の従業員も今まで通り勤務でき、取引先とも現在の関係を維持できるケースが多いです。

従業員承継のデメリット

従業員へ事業承継をする場合、オーナー様が会社の株式を当該従業員へ売却することで、株式の譲渡がなされます。つまり、従業員は、当該株式の代金を支払わねばならず、多額の金銭を用意する必要があります。また、親族内承継と同様、現在のオーナー様の経営者保証を引き継ぐ必要もあります。
 

事業承継の選択肢③ M&Aについて

M&Aとは

M&Aは、Merger and Acquisitionsの略です。Merger=合併 Acquisitions=買収 と訳されるため、「M&A」は「会社や経営権の取得」を意味します。親族内承継や従業員承継と比較して、第三者承継と呼ばれます。

M&Aのメリット

M&Aには多くのメリットがあります。 第一に、事業承継を検討している企業の強みを活かしてくれたり、弱みを補ってくれる買い手企業が承継先であった場合、さらなる成長が可能になります。売り手企業様より買い手企業様のほうが企業規模が大きいケースがほとんどのため、買い手企業様の持つネットワークによる取引先の拡大や、ブランド力向上による採用の強化、従業員の定着が進む場合もあります。 第二に、オーナー様は事業承継により株式は譲渡しますが、顧問や会長という立場で継続勤務が可能です。買い手企業のうちの多くは、オーナー様に一定期間残留いただき、従業員の離反防止やノウハウの引継ぎを行います。 第三に、経営者の個人保証の買い手企業への引継ぎ、従業員の継続勤務、取引先との関係維持が出来るケースがほとんどです。 最後に、株式の譲渡対価を買い手企業より受け取るため、創業者利潤の獲得、言い換えると、EXITによるハッピーリタイアを実現できます。

M&Aのデメリット

M&Aによる事業承継を実現するためには、シナジーや株式譲渡価格等のオーナー様が求める条件に合う買い手候補企業を探す必要性がございます。自ら探すことは大変であるため、M&A仲介会社に依頼するケースが増えております。 また、前述の通り一定期間の残留、いわゆるロックアップを求められるため、早期退任を希望する場合は相応の苦労があります。 その他、M&Aにおいてオーナー様が注意すべきポイントは以下の記事にまとめています。

参考記事「M&Aにおける注意点とは?譲渡企業のオーナー様が事前に確認するべきこと解説!

 

事業承継の選択肢④ 廃業について

廃業とは

文字通り、事業を廃する、つまり会社を清算することを指します。これにより事業運営は終了となりまる。

廃業のメリット

廃業メリットは、オーナー様が事業の負担から解放されることでです。

廃業のデメリット

廃業した場合、従業員の解雇や取引先への対応などを行わねばいけません。また、借入金残高があり、経営者保証がついている場合、こちらの返済の必要があります。

参考記事中小企業の事業承継における課題とは

専門家選定のポイントとチェックリスト

事業承継を成功させる最大の鍵は、適切な外部パートナーを早期に巻き込むことです。ここでは「誰に、いつ、何を依頼するか」を明確にするためのチェックポイントを提示します。

役割の切り分けを先に決める

税務:株価評価・納税猶予申請は税理士

法務:定款変更や株主間契約は弁護士

M&A仲介:買い手探索と条件交渉はFAまたは仲介会社
役割をリスト化しておくと、依頼漏れや責任のあいまいさを防げます。

専門家の実績を定量で比較

「過去5年の承継実績○件」など、数値で可視化するとミスマッチを回避。無料相談で実績をヒアリングし、必ず裏付け資料を確認しましょう。

NDA締結後に機密資料を渡す

情報漏えいリスクを避けるため、秘密保持契約(NDA)は面談初期に締結。決算書・株主名簿などは締結後に渡すルールを徹底します。

定例ミーティングで進捗を見える化

契約後は例えば月1回の定例会を設定し、タスク進捗・リスク・次アクションを共有。議事録をクラウドで共同管理することで、各専門家がスムーズに動いてくれやすくなります。

失敗事例から学ぶ

後継者が未定のまま顧問税理士だけに丸投げした会社では、適正株価の試算が遅れ、買い手との交渉開始が先延ばしに。その間に業績が悪化し、最終的な売却価格は当初試算より大きく下落することもあります。セカンドオピニオンを取得するなど、複数の専門家を早期に巻き込み、ダブルチェック体制を敷くことも重要です。

よくある質問

Q1. 事業承継の準備は「経営者が何歳になったら」始めるのが理想ですか?

A.目安は60歳を迎える 10 年前、つまり50歳前後から始めることが理想です。株式集約・税負担対策・後継者教育を同時並行で進めるには5〜10年を要します。早く着手するほど選択肢(親族内/従業員/M&A)が広がり、承継コストも抑えやすくなります。

Q2. 後継者教育プログラムは何年くらい組むべきですか?

A. 少なくても3〜5年は必要となるでしょう。前半は現場オペレーション習得、後半は財務・人事・法務など経営管理科目を重点的に学びます。社外セミナーやMBA取得を組み合わせる企業も増えています。

Q3. 少数株主が承継に反対した場合、どのような解決策がありますか?

A.①株式の自己株買い ②会社法上のスクイーズアウト(全部取得条項付種類株式、特別支配株主の株式等売渡請求など)などが選択肢です。手続きごとに要件やコストが異なるため、弁護士・公認会計士と早期に協議するのが安全です。

Q4.小規模企業でもM&Aを選ぶ場合、仲介・FA(フィナンシャルアドバイザー)費用はどの程度かかりますか?

A.着手金や月額報酬で数10万円~100万円。成功報酬で譲渡価格の1~5%程度が掛かります。なお、成功報酬額は最低金額が設定されるケースが多く1,000万円~2,500万円程度が相場です。 成功報酬は、クロージング時に発生し、「レーマン方式」で譲渡金額に応じて手数料率が段階的に発生します。なお、譲渡金額については、株価金額か総資産の金額が会社によって異なります。 <レーマン方式のテーブル>
5億円以下の部分 5%
5億円超 10億円以下の部分 4%
10億円超 50億円以下の部分 3%
50億円超 100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%

Q5.承継後、旧経営者(前オーナー)はどの程度会社に関与し続けるべきですか?

A.目安は、最長で1〜2年、但し役割は限定的にすることが一般的です。例えば、以下のようなスケジュールで行います。
フェーズ 旧経営者の推奨ポジション 主な責務
0〜6カ月 顧問(週数回通常出勤) 新経営陣への業務継ぎ、主要取引先への信頼継続
6〜12カ月 顧問(週1回ミーティング参加) 後継者の意思決定をサポートしつつ、“助言のみ”に徹する
12カ月以降 顧問契約終了 or 年数回の臨時相談 ガバナンス上の独立性を確保し、世代交代を明確化
  • 関与が長すぎると、新体制への権限移譲が進まず組織が二重統治になりがち。

  • 短すぎると、暗黙知の伝承が不十分で顧客離れや品質低下リスクが高まります。

最適なバランスは「最初の1年は並走、その後は後継者にフルバトンタッチ」。契約書に、顧問契約の期間と役割範囲(出社頻度・決裁権の有無)と待遇を記載する等も重要です。また、従業員と取引先に“いつ完全移行するか”を事前に告知しておくとスムーズです。

まとめ

このように、事業承継については、複数の選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。最適な事業承継を行うため、早い段階で将来の事業承継プランの検討をスタートし、専門家に相談することをお勧めします。

参考記事「事業承継・引継ぎ支援センターとは?その役割とサポート内容を徹底解説」


執筆者  株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏  株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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